ここだけはしっかり事前に要協議‼ みんな苦手なお金の話

つい最近、中小企業で海外取引の担当をされている方より伺った興味深いお話を少しさせて頂きたいと思います。

 

その企業様は、なんと初めてのアジア市場進出で、いきなり全世界に展開する大手グローバルメーカーより金型の引き合いを頂きました。

慣れないながらも何とか見積を作成し、幸運にも受注を頂くことができました。

その後は、貿易に慣れたグローバルメーカーの担当者の指示に従う形で、とてもスムーズに金型を輸出できることが出来ました。

 

しかも、受注時に前金として商品価格の50%を支払うと先方より提示されており、本当に注文書発行からわずか数日以内に銀行送金で入金が確認できたそうです。

取引相手は、全世界に展開する誰もが知るグローバルメーカーで信用不安は皆無、お金払いも良く、慣れない輸出業務も優しくリードしてくれる、正に理想の取引相手です。

 

しかしながら、私はこの取引を通じて、今後この企業様が海外展開を進めて行く上で、幾つか改善すべきポイントがあると感じました。

 

1.交渉の主導権を握る

全ての取引先が、今回のケースのように紳士的な態度で折衝に応じてくれるとは限りませんし、むしろ稀なケースだと思います。

海外取引においては、売り手側が率先して取引条件等を買い手に提示し、交渉を進めて行くことが一般的です。

営業活動ですので、遠慮する必要はありません。

まずは売り手側が望む条件を積極的に提示し、そこから買い手と交渉を始めます。

また、機密保持契約書や売買契約書に関しても、売り手側が契約書の雛形を作成し(勿論、自身に有利な条件を盛り込みます)、買い手にサインを求めるのが通常です。

このように、あらゆる面で先手を打って主導権を握ると、その後自身に有利な方向で交渉を進めることが可能となります。

 

2.お金の話は先に明確にしておく

日本の商習慣では、納品完了後に代金請求をすることが一般的だと思います。この日本独自の商習慣を海外取引に適用することは極めて危険です。

海外取引は、異なる国と国の間における商品の売買取引となり、売り手と買い手が物理的に遠く離れているため、売買の成立や商品の引渡し、代金決済のタイミングにズレが生じます。

特に代金決済においては、代金が後払いの場合、売り手(輸出者)には商品を出荷したにも拘わらず代金を回収できない不安が残ります。

逆に、代金が先払いの場合、買い手(輸入者)には代金を支払ったにも拘わらず商品が届かない不安が残ります。

つまり海外取引では、輸出者にとって都合の良い支払条件は輸入者にとってリスクとなり、輸入者にとって都合の良い条件は輸出者にとってリスクとなるため、相反する関係にあるのです。

そこで、先ほどの企業様の話にあったように、お互いリスクを分担するため、支払時期を何回かに分けます。

一般的には、デポジット(前金)とバランス(残金)支払いの2回に分けることが多いですが、注意すべきは支払いの比率とタイミングです。

 

(1) 比率

輸出者としては、できる限り前金の割合を増やしたいところですが、リスクを平等に負担するのであれば、50%前金/50%残金支払いがフェアだと思います。但し、万一残金の回収ができなくなった場合のリスクを考慮し、少なくとも製造原価分の前金は確保しておくようにしましょう。

また、一度契約書を締結すると取決めた支払条件を途中で変更するのは非常に難しいので、この前金/残金の比率は事前にしっかり交渉しましょう。

 

(2) タイミング

・  デポジット(前金): できればオーダー受領後1週間~10日以内

前金はオーダーのキャンセル防止にもなりますし、輸出者は前金を原材料の調達に充てることも可能だからです。

  • バランス(残金): 船荷証券(= Bill of Landing: 通称「B/L」と呼ばれます)発行後3~7日以内

 

海外取引に慣れない内は、商品を納める前に残金の請求をすることに抵抗があるのか、結構この残金回収のタイミングに躊躇される企業様が多いように感じます。船荷証券に関しては、次号でもう少し詳しくお話させて頂きます。

 

輸出ビジネスで交渉すべきお金の話し