貿易におけるDAP、DPU、DDP 3つの規則とは?インコタームズ(貿易条件)について

 

インコタームズ(貿易条件)とは

輸出・輸入に関わらず、INCOTERMS(「インコタームズ」と呼びます)と貿易は切っても切れない関係にあります。そこで、まずは貿易の基本中の基本、インコタームズについて説明していきたいと思います。

インコタームズは、International Commercial Terms(貿易条件)の略称であり、国際商業会議所(ICC)が貿易取引における費用負担や危険負担の範囲などの取引条件を定めた国際規則です。

もう少し分かりやすく説明すると、貿易では貨物が海外の工場や倉庫から日本に到着するまでの間に、運賃や作業費用、保険料、関税、通関費用など様々な費用が発生する上、戦争や座礁、輸送トラブルなど輸送中にも様々なリスクが存在します。そこで、輸送の際の費用やリスクを「誰がどの範囲まで負担するか?」の条件を明確にする必要があります。

また、貿易は商習慣や文化が異なる外国との取引となります。そこで、貿易条件に関する売主と買主の合意内容について、国によって用語の解釈に不一致があると貿易が円滑に行われないため、国際的に統一的な定義を取り決めたものがインコタームズです。

ちなみに、商慣習の変化を反映して改正を重ねられており、現在、最新のインコタームズは2020年1月1日から発効したインコタームズ2020となります。

 

terminal

 

インコタームズ2020の11規則(条件)について

今回、10年ぶりに改訂された「インコタームズ2020」は、全部で11種類の条件から成り立っていて、売主と買主間の貨物の引渡しに関するリスク移転の分岐点、役割や費用(輸送の手配と運賃の支払い、保険の手配と支払い等)の負担区分など、それぞれの条件の下で売主と買主が負うべき義務がまとめられています。ここでは、各条件の費用負担を表にまとめてみたので、是非参考にして下さい。

【表1 費用負担】

incoterms table

 

インコタームズ2020では、インコタームズ2010にあった「DAT」(Delivered at Terminal:ターミナル持込渡し)が廃止され、「DPU」(Delivered at Place Unloaded;荷卸込持込渡し)が新設されています。

もし、現在DATで取引をしている場合は、輸出者と新たに貿易条件を協議したり追加で新たにルールを設けるなど、早急な対応が必要となります。

それではDATに代わって、新たにDPUが加わった「D型:売主(輸出者)が指定仕向地までの費用と危険を負担する」について詳しく見ていきたいと思います。

 

インコタームズD型 「DAP」「DPU」「DDP」とは

表1から、海外の工場や倉庫から日本に到着するまでに、実に多くの作業や工程を経ていることがご理解いただけると思います。

その中でも、インコタームズD型の特徴は、売主の費用負担と危険負担が輸入国側の指定仕向地にまで及んでいるところです。つまり、買主(輸入者)の費用および危険負担が軽減され、買主にとって最も有利でメリットの大きな貿易条件となります。

 

最新のインコタームズ2020でD型に該当する貿易条件は3種類です:

① DAP(=Delivered at Place/仕向地持込渡し)

② DPU(=Delivered at Place Unloaded/荷卸込持込渡し)

③ DDP(=Delivery Duty Paid/関税込み持込渡し)

 

また、D型では費用負担とリスク移転のタイミングが同じになりますので、分かりやすいですね。

輸入ビジネスにおいて、貿易実務に不慣れであったり、貿易に関する知識や経験に不安がある場合は、費用や危険負担の割合の少ないD型で取引をすることをおすすめします。

いずれにしても、この用語だけでは分かりにくいため、次の章でもう少し具体的にまとめて説明して行きます。

 

 DAP(仕向地持込渡し)について

DAPはDelivered at Placeの英語の頭文字の略称で仕向地持込渡しと日本語では呼びます。DAPでは売主(輸出者)が買主(輸入者)の指定場所にて荷下ろしする前までの費用とリスクを負担します。

例えば、一般的な貿易の場合ですと、買主(輸入者)の指定する仕向地は輸入者の自社倉庫や提携倉庫となります。DAPの場合、貨物がコンテナドレージやトラック等で輸入者の指定する倉庫への配送が完了した時点で、売主(輸出者)の費用および危険負担が買主(輸入者)に移転します。つまり、コンテナやトラックからの荷下ろしは、輸入者の費用とリスク負担で行うことになります。

但しDAPでは、輸入通関の手続きや通関に掛かる諸費用、輸入関税は、買主(輸入者)の役割であり、その費用を負担することになります。

 

DPU(荷卸込持込渡し)について

2020年1月1日から発効したインコタームズ2020で新設されたDPUですが、DPUはDelivered at Place Unloadedの英語の頭文字の略称で、荷卸込持込渡しと日本語では呼びます。DPUでは売主(輸出者)が買主(輸入者)の指定場所にて荷下ろしが完了するまでの費用とリスクを負担します。

つまり、DPUの場合、輸入者の指定する倉庫等にて、コンテナやトラック等から貨物の荷下ろしを完了した時点で引き渡しが完了となり、それ以降の費用および危険負担が買主(輸入者)に移転します。

但しDPUでも、輸入通関の手続きや通関に掛かる諸費用、輸入関税は、買主(輸入者)の役割であり、その費用を負担することになります。

 

 DDP(関税込み持込渡し)について

最後に、DDPはDelivery Duty Paidの英語の頭文字の略称で関税込み持込渡しと日本語では言います。もう少し厳密に言うと、仕向地持込渡し&関税込みとなります。

DAPの場合、輸入通関の後、貨物がコンテナドレージやトラック等で買主の指定する倉庫への配送し、荷下ろしする前までの費用とリスクを売主が負担します。つまり、コンテナやトラックからの荷下ろしは、輸入者の費用とリスク負担で行うことになります。

一般的に関税は、輸入者が現地の税関に収めるものですが、DDPでは輸入国側で発生する通関費用や関税も輸出者が負担します。

DDPは配送が完了するまでの費用とリスクを売主(輸出者)が全て負担する取引条件となるため、インコタームズの11規則の中で最も輸出者の負担が大きい条件となります。

 

DAP・DPU・DDPを比較して負担を検討する

新設されたDPUを含め、結局どの貿易条件が自分にとって最善なのか分からない方も多いのではないでしょうか?そこで、DAP・DPU・DDPを比較検討する際に重要な3つのポイントについて説明して行きます。

 

貨物の引渡し場所

DAP・DPU・DDP条件では、輸入者が指定した場所で貨物の引き渡しを行うことができますが、引き渡し地点がそれぞれ異なるため、注意が必要です。

■ DAP・DDP…輸入者が指定する場所に、コンテナドレージやトラック等による配送が完了した時点で貨物の引き渡しは完了します。但し、コンテナやトラックからの荷下ろしは輸入者側で手配する必要があります。

■ DPU…輸入者が指定する場所にて、コンテナやトラック等から貨物の荷下ろしを完了した時点で引き渡しが完了します。

 

 輸入関税の負担

輸入国側の仕向地までの持込渡し条件であるDAP・DPU・DDPにおいて、買主(輸入者)の国へ輸入する際に課される関税の負担を誰がするのか?を事前に確認しておくことは非常に重要です。

輸入の際には、輸入関税と輸入消費税の2種類が課税されます。特に輸入関税は、輸入消費税とは異なり、仕入コストとなりますので、輸入関税の負担を曖昧にしたことで、思わず利益率が圧縮されるなんてことが無いように注意しましょう。

■ DAP・DPU…輸入関税および輸入通関に掛かる諸費用は、買主(輸入者)が全て負担する。

■ DDP…輸入関税および輸入通関に掛かる諸費用は、売主(輸出者)が全て負担する。但し、輸入消費税は輸入者の負担となります。

 

リスクの負担

「D型」の貿易条件の場合は、費用負担とリスク移転のタイミングが同じになります。

実は、国際輸送でもっとも事故が発生しやすいとされているのは、貨物の積込みと積下ろしの時です。特に精密機械の取扱いや、フォークリフト作業などでの事故には注意が必要ですので、不安な場合はDPUの貿易条件を打診してみると良いでしょう。

■ DAP・DDP…輸入者が指定する場所に、コンテナドレージやトラック等による配送が完了した時点で貨物の引き渡しは完了します。つまり、コンテナやトラックからの積下ろしは、輸入者の費用とリスク負担で行うことになります。

■ DPU…輸入者が指定する場所にて、コンテナやトラック等から貨物の積下ろしを完了した時点で引き渡しが完了します。それ以降の費用および危険負担は買主(輸入者)に移転します。

 

インコタームズD型について費用およびリスク負担を表にまとめたので、是非参考にしてください。

貿易条件

輸入港での
陸揚げ

輸入港での
荷役

海上保険

買主への
輸送

荷下し作業

輸入通関

輸入関税

D型

DAP

売主

売主

売主

売主

買主

買主

買主

DPU

売主

売主

売主

売主

売主

買主

買主

DDP

売主

売主

売主

売主

買主

売主

売主

 

実際の貿易ビジネスの現状

今回はインコタームズの「D型」に分類される「DAP」「DAT」「DDP」を中心に解説してきました。

そこで、ロジックは分かったけど、実際の貿易ビジネスの現状では、どんな貿易条件で取引をするのが一般的で、みんなはどうしているの? 逆に、こんな疑問を持った方も多いのではないでしょうか?

ここからは、現状に則した貿易ビジネスの一般的な考え方について説明していきます。

輸入ビジネスの場合は、当然「D型」が最善ということはご理解いただけたと思います。ところが、D型は輸入者にとって最も費用とリスクの負担が軽減されるメリットの大きい好条件となりますが、裏を返せば、輸出者にとって最も負担が大きい悪条件となります。

反対に、輸出者にとっても最も負担が軽くてメリットが大きく、輸入者にとって最も負担が大きいのが「E型」、つまりEXW(Ex-Works:工場渡し)となります。輸出者としては、当然手離れの良い「E型」で条件提示をすることになります。そこで実際の輸入ビジネスでは、この相反する貿易条件を交渉して、お互いに納得のいく条件をすり合わせるプロセスが必要となります。

 

貿易ビジネスでよく利用される貿易条件について

そこで、ここからは実際に貿易ビジネスでよく利用されている貿易条件についてお伝えしていきます。

輸入ビジネスにおいて、貿易実務に不慣れであったり、貿易に関する知識や経験に不安がある場合は、費用や危険負担の割合の少ないD型で取引をすることをおすすめしています。ところが、実際のところ、私が今まで20年以上に渡って世界30ヵ国以上の企業と交渉をしてきた中で、最初から「D型」を提案してきた輸出者は、まだ一度もお目にかかったことがありません。

普通に考えて、輸出者にとって最も負担が大きい悪条件を、わざわざ最初から提示してくる輸出者はいませんよね。多くの輸出者が提示してくるのは、当然「E型」のEXW(Ex-Wors:工場渡し)です。

もしくは、コンテナ単位などある程度まとまった物量を想定している輸送の場合は、FOB (Free on Board: 本船渡し)などの「F型」、もしくはCFR(Cost and Freight:運賃込み)やCIF (Cost, Insurance and Freight:運賃保険料込み)などの「C型」での貿易条件の提示が一般的です。

要は、F型やC型の貿易条件では、輸出国における国内輸送費や輸出通関、本船への船積み費用、運賃や保険料(C型の場合)など、輸出者側も費用およびリスクを負担するため、コンテナ単位などある程度まとまった物量がないと掛かるコストを吸収できません。そこで貿易条件を変更することで輸出価格を調整するというケースが一般的です。

つまり、E型以外の貿易条件を獲得するには、最低でもまとまった物量がない限り、結果的には輸出価格にコスト転嫁されることになります。

 

 

輸入ビジネス初心者にとってベストな貿易条件とは?

輸入ビジネス初心者の場合、E型以外の貿易条件を獲得するために、最初からまとまった物量を取扱うにはリスクが高すぎる上、現実的ではありません。

では、輸出者からEXWで条件提示されたらどうすれば良いのでしょうか?輸出国にある倉庫から貨物を引き取って、輸出申告をして、船積みを…などの海外で発生する複雑な作業を初心者が自力で手配するのはまず無理でしょう。

そこで、輸入ビジネス初心者にとってベストな方法は、一旦EXW(Ex-Works:工場渡し)の貿易条件を受け入れることです。その流れから、輸出者に国際輸送の手配を別途依頼します。当然、輸送に掛かる費用は全て輸入者の負担となりますが、不慣れな業務の負担からは解放されます。

協力的な輸出者であれば、輸出国の貨物引き取り場所から日本までの輸送費用の見積もりを現地のフォワーダー(貨物利用運送事業者)から取り寄せて、一連の流れの国際輸送の手配をしてくれます。

この場合、どこまでの費用が含まれていて、貿易条件が何に該当するのか事前に確認することが大切ですね。

 

インコタームズ(貿易条件)のまとめ

輸入ビジネスにおいて、自らが負担する費用やリスク移転を事前に把握することが、安心&安全で利益率の高い輸入ビジネスへと繋がります。また、インコタームズを活用することで、世界中の輸出者との間で費用およびリスク負担に関する解釈が一致し、ルール化されるため、円滑な貿易取引が可能になります。従って、取引条件の交渉の際には必ず貿易条件をチェックしてください。

また、貿易条件のそれぞれのメリットやデメリットは一応理解できた、できたけど実際に自身のビジネスに落とし込んだ時、どの規則(条件)を採用するのがベストなのか?きっと多くの方が悩むのではないかと思います。

貿易取引において、この最も重要な条件を、不安を抱えながら自己判断で進めてしまうのは、大きなリスクがつきまといます。そんな時は、専門家に相談するという選択肢もありますので、いつでもご相談ください。

 

最後に、現在海外企業と取引条件に関して交渉中、もしくはこれから交渉を始める方に嬉しいお知らせです!

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