海外企業との独占販売権の契約書について

海外企業との独占販売という権利を確固たるものにするために、契約書は欠かすことができません。ところが、海外メーカーと独占販売権の取得に向けて交渉を開始し、既に数ヶ月経過しているにもかかわらず、まったく話が噛み合わずに交渉が進展しない…というご相談をよくいただきます。ちなみにこれは私のクライアントの実例ですが、ある海外商品の日本総輸入元としてのポジション獲得に向けて、当初より独占販売契約の交渉を海外メーカーと進めていたのですが、「御社と総代理店契約(Exclusive Agent Agreement)を結びたい」と相手方に伝えてしまっていました。すると、相手方から『コミッション(販売手数料)は何パーセント必要か、価格設定をどうするか、日本ではどれ位のマージン設定にすべきか、少量なら日本で在庫管理してくれるのか…』等々、何度メールをやり取りしてもまったく話が噛み合わず、困って私のところへ相談に来られました。

実は、これでは残念ながら、本来求めている独占販売権を有する日本総輸入元のポジションを手に入れることはできません。一体、何がダメだったのでしょうか?

 

海外との独占販売権は代理店(エージェント)か販売店(ディストリビューター)かの違いで契約は変わる

日本では販売パートナーである「販売店」と「代理店」を混同して使用するケースもあり、「販売代理店」という言葉もよく見かけます。なんとなく、どちらも一緒のように捉えがちですが、実は海外取引においては「販売店(Distributor・ディストリビューター)」と「代理店(Agent・エージェント)」の間には明確な違いがあります。海外企業との独占販売権の取得において、代理店か販売店かの違いをしっかり理解せずに契約の話を進めると、話が噛み合わないだけではなく、『こんなハズじゃなかった…』と、大きなトラブルになりかねませんので、海外取引における代理店と販売店の違いについてよく理解しておくことが大切ですね。

 

 

 代理店(エージェント)契約と販売店(ディストリビューター)契約の違い 

まず、海外との独占販売権における代理店契約(エージェント)と販売店契約(ディストリビューター)の主な違いを3つのポイントに絞って整理していきます。ちなみに、海外では一般的なSales Representative(一般的には、「セールスレップ」と呼ばれます)はメーカーの代理で営業業務のみを担うため、代理店(Agent)の括りになります。

 

違い① 在庫リスク

まず在庫リスクにおける代理店(エージェント)契約と販売店(ディストリビューター)契約の違いについてご説明します。

代理店(エージェント):

売主(メーカー)の代理として、営業活動(主に販売)を行います。代理店は、基本的に在庫を抱えるリスクを負うことはありません。例えば、イメージとしては業務委託や営業代行、仲介など、代理人として介在することになります。

販売店(ディストリビューター):

売主(メーカー)から商品を仕入れ、自ら在庫を抱え、自らの責任で商品を第三者に販売します。販売店は、仕入れによる在庫リスクだけでなく、営業活動から生じる全ての損益やクレーム、品質保証責任等のリスクも負うことになります。

 

違い② 価格設定

価格設定における代理店(エージェント)契約と販売店(ディストリビューター)契約の違いについてご説明します。

代理店(エージェント):

在庫を抱えるリスクがない一方で、販売価格の設定は売主側の指示に従うことになります。従って、自ら価格設定をする権利は付与されておらず、販売実績に応じて販売手数料(コミッション)という形で利益を得ることになります。

販売店(ディストリビューター):

仕入れによる在庫リスクを負う一方で、販売価格を自由に設定して、販売することができます。売主(メーカー)と販売店とは、「売り切り、買い切り」の売買取引であるため、販売によって生じた損益(仕入れと販売価格の差額)は、そのまま販売店に帰属します。つまり、販売店は販売価格を自由に設定し、自らの利益を決めることができるため、代理店よりも大きな利益を得ることができます。

 

違い③ 代金回収

代金回収における代理店(エージェント)契約と販売店(ディストリビューター)契約の違いについてご説明します。

代理店(エージェント):

売主(メーカー)の代理として、営業活動(商品紹介や顧客開拓など)を行い、売主と買主(顧客)間の売買契約を仲介します。つまり、売買契約の当事者とはならないため、代金回収のリスクは負いません。また、営業活動から生じる全ての損益やリスク等はメーカーに帰属します。

販売店(ディストリビューター):

 売主(メーカー)とは「売り切り、買い切り」の売買取引となるため、第三者に販売した商品の代金回収リスクを全て負うことになります。

 

代理店契約(エージェント)と販売店契約(ディストリビューター)の一般的な条項

輸入したものを販売するという点においては同じでも、代理店(エージェント)と販売店(ディストリビューター)の立場の違いによって、契約内容や責任範囲が大きく異なります。そこで、代理店契約(Agent Agreement)と販売店契約(Distributor Agreement)に含まれる一般的な条項を大まかにリストアップしてみました。基本の型(テンプレート)として、ぜひ覚えておいて下さいね。

 

 代理店(エージェント)契約の一般的な条項

代理店契約に含まれる一般的な条項の例は以下の通りです:

1. 独占/非独占の代理店であることの指定
2. 代理販売の対象となる商品の規定
3. 販売地域の指定
4. 販売手数料の規定
5. 秘密保持
6. 契約期間
7. 契約解除
8. 紛争解決手段、準拠法

その他、営業活動から生じる全てのリスク(瑕疵・品質保証に対する責任等)は、基本的に売主(メーカー)側に帰属しますが、その対処方法やクレーム対応など、細かい部分も責任範囲を協議して契約書に盛り込んでおくと安心です。あと、販売手数料の支払時期や算出方法等、重要な部分は契約書内で明記しておくようにしましょう。

 

販売店(ディストリビューター)契約の一般的な条項  

販売店契約に含まれる一般的な条項の例は以下の通りです:

1. 独占/非独占の代理店であることの指定
2. 販売商品の規定
3. 販売地域
4. 瑕疵・品質に対する保証、責任範囲
5. 発注と価格、支払条件
6. 納期
7. 輸送の費用負担や危険移転に関する規定
8. 知的財産権の使用権限
9. 秘密保持
10. 契約期間
11. 契約解除
12. 紛争解決手段、準拠法

販売店契約では、「売り切り、買い切り」の売買取引となるため、最低購入数量や金額、販売価格(価格変更時の事前通知の規定を含む)、支払条件、仕様変更の通知、競合品の販売制限に関する規定など、お互いの責任範囲や役割を明確にする条項を盛り込むことが一般的です。

 

 独占販売権の契約において重要なポイント 

売主(メーカー)は、特定の販売地域において複数の会社と契約を結ぶ場合もあれば、1社とのみ独占的に契約を結ぶ場合もあります。特定地域において1社とのみ独占的に契約を締結する場合には独占販売権(Exclusive Distribution Right)が付与され、その独占販売権を獲得した販売店をSole Distributor(ソール・ディストリビューター)もしくはExclusive Distributor(エクスクルーシブ・ディストリビューター)と呼びます。ここでは独占販売権の契約においてチェックすべき重要なポイントを3つ紹介していきます。

 

独占販売権

 

ポイント① 「独占」の範囲を明確にする

輸入ビジネスにおいて、独占販売権を獲得するにあたり最も重要なポイントは「独占」の範囲を明確にすることです。メーカーによっては、取扱対象商品や販売地域、販路、マーケット等を細分化し、範囲を限定して独占販売権を付与しているケースもあります。しかしながら、日本総輸入元として盤石なポジションを確立するには、

■ 対象商品・サービス:メーカーが製造する全ての商品・サービス

■ 営業エリアや市場(領域): 日本全域

の2つの条件を満たして、独占的に販売できる権利を獲得する必要があります。また、契約書で合意した「独占」の範囲外での営業活動は契約違反となる可能性があるため、「独占」の範囲は納得がいくまで事前に協議することが大切です。

 

ポイント② 競合品の取扱い

独占販売権に関してよくある質問の1つに「独占販売権を取得したいけど、同時に競合他社の競合品を取扱っても良いのか?」というものがあります。実は、これは非常にセンシティブな問題で、ケース・バイ・ケースというのが正しい答えですね。

と言うのも、メーカー側の立場からすると、本来であれば日本国内に複数の販売店を設置した方が、販売機会が増え、よりビジネスの拡大が期待できます。しかしながら、あえて1社に独占的に販売権限を与えるということは、それはつまり独占販売権を取得した1社がメーカーからの信頼と期待を全て背負っているということになります。メーカーとしては、日本市場を完全に任せるつもりで独占販売権を付与しているわけですから、自社商品の販売に集中して欲しいと考えるのが当然です。逆に、同時に競合他社の競合品を取扱うとなると、これは立派な浮気に他なりません。従って、独占販売権の契約においては、競合他社の競合品の取扱いを禁じていることが一般的です。しかしながら、直接する競合品は禁止でも、直接競合しない類似品(例えば、明らかに価格帯が異なる、ターゲットが異なる等)の場合は許容している場合もありますので、契約締結前に確認しておくと良いですね。

 

ポイント③ 最低購入数量(または金額)

独占販売権を取得すると、メーカーの信頼と期待を全て背負うことになり、同時に数字の責任も伴います。ここで言う数字とは、商品の最低限購入数量や最低購入金額などの営業的な目標数値のことです。また、独占販売権の契約においては、「目標が未達成の場合は即契約解除となる」といった条項がセットになっていることが一般的です。ここで重要なポイントとしては、最低購入数量(または金額)や目標数値はあくまでも努力目標とする方向で交渉することです。

 

独占販売契約における重要なポイントのまとめ

独占販売権は信頼の証であり、取得してそれで終わりではありません。お互いに意思疎通を図りながら信頼関係を構築し、長期間に渡って独占販売契約を継続することが何よりも重要といえます。

独占販売権によって売主(メーカー)側も買主(輸入者)側も多くの責任を負い、制約を受けるため、わざわざ大変な思いをして独占販売権を取得する意味があるのか?と疑問に思うかも知れません。ですが、独占販売権を有する販売店(Exclusive Distributor)として日本総輸入元のポジションを確保できれば、大変さ以上に大きなメリットがあるのも事実です。

輸入ビジネスにおいて、独占販売権を取得するメリットの詳細はこちら

独占販売権とは?輸入ビジネスにおけるメリットについて

 

再販売価格の拘束は独占禁止法に違反する

海外メーカーから日本国内の独占販売権を取得して、日本総輸入元となると販売価格(厳密に言えば、希望小売価格*)を自由に設定することができます。*希望小売価格とは、メーカー(輸入の場合は日本総輸入元)が希望した販売価格

そして、商品の値崩れを防ぐためにも、販売店に安売りをされたくありません。そのため、消費者への販売価格を指定したい、つまり再販売価格を拘束したいと考えてしまうのですが、実はこの再販売価格の拘束が独占禁止法に違反してしまうのです。もう少し詳しく説明すると、

■ 消費者への販売価格を拘束する内容の代理店契約を結ぶ

■ 指定した販売価格で販売しない場合は出荷停止など、圧力をかける

■ 指定した販売価格に従った場合に限り、リベート(割戻金)等を与える

など、販売店を拘束する、圧力を掛けるような行為は再販売価格の拘束として、独占禁止法違反となります。とは言え、日本総輸入元となると日本国内で商品を販売してくれる販売店やディーラー、ショップはすべて販売に協力してくれる仲間です。独占禁止法に抵触しない範囲内で、お互いに健全なビジネスを維持するために、しっかり協議し、理解を得ることが大切ですね。

 

海外企業との独占販売権の契約に悩んだら?

冒頭でお伝えしたクライアントの交渉のいったい何がダメだったか、もうお分かりですよね。そう、問題点は代理店(エージェント)と販売店(ディストリビューター)の違いを理解していなかったのが大きな原因です。独占販売権を有する日本総輸入元のポジションを手に入れるためには、「御社と総販売店契約(Exclusive Distributor Agreement)を結びたい」と伝えるべきだったのです。たった一言の間違いで、随分と遠回りをする結果となりました。

代理店であれ販売店であれ、独占販売権の契約には多くの責任が伴います。また、お互いに販売増やビジネスの拡大という共通の目標があっても、自分にとっての好条件は相手にとって悪条件となり、相反する立場となります。独占販売権の契約のベースは「信頼」ですので、海外メーカーとしっかり意思疎通を図りながら、お互いに主張と譲歩を繰り返しながら、最終的な落としどころを見つけて行くことが大切です。

海外メーカーとの独占販売契約に向けて何らかの不安を感じている場合は、個別に相談を受け付けておりますので、専門家へご相談ください。

ビジネスの成否を左右する大切な契約書ですから、分からないことや不安なことをそのまま放置して進めることは大きなリスクです。また、思わぬ遠回りをすることになりかねません。ワールドトレードプランニングでは、誰もが抱える不安や課題に対し、個々のケースに寄り添いながらサポートさせて頂きます。

最後に、現在海外メーカーと取引をしている、もしくはこれから取引を検討している方に朗報です!

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